北米の自動車レース界では、レースで使用されるエンジンの話題となると、設立20周年を迎えるRoush Yates Engines社の名前が必ず挙がります。伝説的人物のJack Roush氏、Robert Yates氏とFord Motor Company社が強力なパートナーシップを結び、NASCARカップ・シリーズとエクスフィニティ・シリーズに参戦するFordチームへのエンジン供給を一手に引き受けています。Roush Yates Engines社とFord Performance社は共同でエンジンを供給しており、2004年以降両シリーズ合わせて440回を超える勝利を支え、NASCARカップ・シリーズのチャンピオンに3回輝いています。この成功に向けた取り組みは、Roush Yates Engines社がニコン製品を活用してレース用と一般用のどちらの製品も完成度を向上させ、さらに防衛産業や宇宙産業などモータースポーツ以外の分野でも同レベルの優秀な委託製造を可能にすることを狙ったものでした。
部品検査において信頼できるプロセスを開発し、部品の摩耗や不良がどのような理由でどのようにして発生するかを理解し、各部品を製品化することは、Roush Yates Engines社のようにエンジンを製造し多数のレースチームに供給する企業にとって最重要事項です。このため同社はニコンの画像測定システム iNEXIV VMA-4540を採用し、測定プロセスや検査プロセスを改善して完成度を向上させることを目指しました。
スピードを追求
Roush Yates Engines社が供給するのはレースエンジンなので、スピードがその品質を表しています。各エンジンは、レース車両に積み込む前にチームのメカニックやエンジニアが分解して検査し、再び組み立てます。そのエンジンの数は年間1,000基以上、部品数は10万を超えるほどになります。信頼性を確保するためにはエンジンコンポーネントの精密公差検査が不可欠ですが、この作業にはかなりの時間が必要です。製造現場では、測定の速度とともに再現性、精度、信頼性が、カーレースのトラック上での速さと同じくらい重要です。
2016年以来、当社では精度と再現性の高いデータを迅速に得るためニコン製品を利用しており、開発期間を短縮して市場投入を迅速化することに成功しています。
Roush Yates Engines社で戦略的パートナーシップおよびマーケティング担当のバイスプレジデントを務めるTodd English氏は、iNEXIV VMA-4540についてこのように語ります。
Roush Yates社はニコンの画像測定システム iNEXIVを採用し、半径やテーパーなど必要となるさまざまな値を測定して、有意義なデータを迅速に取得しています。このシステムにより、精度と再現性の向上、検査コストの削減、検査プロセスの大幅な迅速化など、副次的なメリットも多数得ることが可能です。
その例のひとつとして、ピンゲージによる小さな穴の直径の測定が挙げられます。ニコンのシステムを導入する前は手作業で検査を行う必要があり、100個の部品の検査に20~30分を要していました。また、この検査をすべて終わらせないと次の検査手順に移ることができませんでした。しかしiNEXIVを使用するとこのプロセスが12~14分で完了し、また他の検査手順と同時進行することができます。これにより検査の所要時間が50%短縮され、検査員の時間節約効果は97%にも及びます。そのうえ、iNEXIVにはそれぞれの穴の測定データを記録できるというメリットもあります。
NASCARエンジンで使用されるプッシュロッドなど、テーパー部分がある部品や半径が複雑に変化する部品を測定する時間が大幅に短縮され、iNEXIVはRoush Yates Engines社に大きく貢献しています。従来、これらの部品は輪郭測定器と顕微鏡を使って測定していて、部品1つの検査に3分かかっていました。iNEXIVを使用すると同じプロセスがわずか1分で終わるうえ、部品を測定するだけでなく、そのデータを記録したり該当箇所の写真を撮影したりできるという利点があります。
ニコンの画像測定システムによりRoush Yates Engines社が大幅な時間節約と著しい精度向上を実現
iNEXIVシリーズのVMA-4540であれば、ステージの長さを約3秒で移動します。このスピードとサイズのおかげで、比較的大きなエンジン部品も高い信頼性をもって迅速に検査することができます。ヘッドガスケットやインテークガスケットなどの部品の検査がその良い例で、エンジンに組み込む前に最小幅やシリンダ内径を確認することができます。iNEXIVの導入によりこれらの部品の検査プロセスの精度、再現性、信頼性が大幅に向上し、検査所要時間が80%短縮されると同時に、検査対象の部品の寸法をすべて記録できるようになりました。
English氏は、ここまでの内容をまとめて次のように語ります。「エンジンにはガスケットなど測定が必要な部品が大量にあります。エンジニアが必要な情報を迅速に把握して的確に判断できるようにすることで、高性能エンジンの開発を続け、さらに改良していくことができるのです」
変化し続ける世界に適応しレース活動を継続
NASCARレースは新型コロナウイルスの感染拡大に伴い数か月間中断しましたが、2020年5月に再開されました。再開後、レース主催者からチームへの要求事項がいくつか変更されました。その中でもレースのスケジュールが大幅に変更された影響は特に大きく、練習走行と予選がなくなりました。トレーラーから降ろされたレースカーは、そのままレースを走ることになります。このため、エンジンをRoush Yates Engines社の製造現場の時点で完璧に仕上げることが、これまでよりはるかに重要になりました。
しかし、新型コロナが広まる以前から、エンジンメーカーは常に不安定な立場に置かれていました。NASCARではエンジン性能に劇的な影響を与えるようなルール変更が実施されることがよくあり、しかもそれが急に適用されることも珍しくありません。このようなルール変更には、NASCARがチームに供給し使用を義務付けている部品が含まれることもあります。
NASCARや内部エンジニアが新しい部品を設計または供給する場合、iNEXIV画像測定システムがきわめて重要な役割を果たします。チームは部品をこのシステムで迅速に検査して寸法測定し、それを基にしてエンジンへのエアフローにどのような影響があるかを判断します。このデータは数分以内にエンジニアに提供されるので、エンジン性能を最大限に引き出すためのチューニングをすぐに始めることができます。
さまざまな業界に応用できる教訓
ここまで説明したように、精度、速度、要件変更への適応性が、Ford Performance社とRoush Yates Engines社がレースで勝てるかどうかの分かれ目となることが何度もありました。世界レベルのレース用エンジンで究極的な性能を引き出す作業で得られた教訓は、世界中の工場で製造される市販車にも同じように応用できます。
ニコンの画像測定システム iNEXIVシリーズ、その中でも特にVMA-4540には独自の機能とメリットが複数あり、自動車産業のOEM企業各社にとってきわめて重要な寸法測定・検査ツールとなっています。ニコンの光学技術を基盤に持つiNEXIV VMA-4540は、高速性と圧倒的な精度、きわめて広い視野角、最大73.5mmという長い作動距離を併せ持ち、対物レンズと被験物が接触する可能性を最小限に抑えています(レーザーAF装着時は作動距離63㎜)。
上記の他にも、iNEXIV VMA-4540はきわめて測定範囲が広く、照明方法が豊富で、タッチプローブや厳密な画像測定システムとして動作する能力を有するなど独自の機能を備えており、自動車製造企業に選ばれるツールとなっています。iNEXIV VMA-4540は、被験部品の長短、表面が平滑か否か、深い穴で取り付けられているか表面実装であるかなどのさまざまな条件に対応して測定を実施し、再現性のある形で簡単に高精度な測定値を取得することができます。
将来を見据え
Roush Yates Engines社は、ニコン製品を採用して検査プロセスを迅速化し本来の目的を達成すると同時に、精度や適応性の向上を始めとした副次的な効果も得ることができました。6回のレースシーズンを経て、ニコン画像測定システム iNEXIV VMA-4540はRoush Yates Engines社の製造現場で不可欠なものとなっており、レースのトラック上でもそれ以外でもビジネスを成功させるために重要な役割を果たしています。同様に大切なのが、このパートナーシップにより得られた教訓がニコンにとって大きな知見となったことです。ニコンは、市販車を製造している自動車産業全体で品質とスループットを向上させるという目標をいつまでも追求し続けます。
生産におけるコスト効率と時間効率の向上に対する要求はかつてないほど厳しくなっており、Roush Yates Engines社やその他の自動車産業OEM企業のような顧客は、今後もiNEXIV VMA-4540を活用して、きわめて厳格な検査環境や測定環境に対応していきます。コーナーを時速320km以上で回る場合にも、複雑なエンジン部品を測定する場合にも、スピードと精度の両方が不可欠です。すべてのケースにおいて、ニコンは現在も将来もこの業界に不可欠なパートナーであることを自ら実証しています。