X線CT装置が、ロンドン自然史博物館の研究活動・データのアーカイブ化を加速

ロンドン自然史博物館(英国)

ロンドン自然史博物館(Natural History Museum、以下NHM)は、標本のX線CTスキャンを自動化して行っている数少ない博物館の一つです。

NHMが導入した2台目の検査用CT装置「XT H 225 ST」は、装置内部にサンプルラックが収納できる10ステーションのサンプルオートローダーを搭載しています。これにより、内蔵マニピュレータで標本をスキャニングターンテーブルに自動でセットして、読み取りが行えるようになりました。

NHMの狙いは、所属部署や専門分野が多岐にわたる同博物館の研究者の支援に加え、遺物、動物、植物、化石、岩石、隕石など、莫大なコレクションの非破壊・非侵襲検査とデジタルアーカイブ化を加速させることにもあります。

多くの種類の動物について、骨の形態比較を含むさまざまな検査が実施されています。コンピュータ分析を活用することで、人の目による観察のばらつきを排除しながら進化傾向の研究を行う手法は、正確かつ再現可能な結果を得る上で容易な手段の一つです。例えば、サンゴ(動くことはできないが、動物に分類される)は地球温暖化の研究の一環として、定期的なスキャンの対象になっています。

「XT H 225 ST」は、バッテリー、アディティブマニュファクチャリングで製造した部品、ハニカム構造など、産業分野の非破壊3D分析にも利用されています。このような産業用途はNHMにおける同装置の処理量の約20%を占め、年間収益にも一役買っています。

NHMでは標本コレクションのデジタルアーカイブ化を進めています。「XT H 225 ST」の導入によってプロジェクトの加速化が実現し、外部と内部の形状の3Dデジタルモデルが従来以上のスピードでデータベースに追加されるようになりました。その結果、研究者、修復を行うコンサバター、学界、ビジネス界、一般大衆の間で、より迅速な情報共有が国際規模で行えるようになっています。

スキャン時に検査対象物を自動的にセットしてくれる、この装置独自のハンドリング機器が利用できる点は、XT H 225 STを購入する上で大きな決め手になりました ー NHM、Vincent Fernandez博士

同氏はさらに語ります。
「我々は、機器の信頼性と撮影品質の重要性についても認識しています。博物館で利用されるシステムは、多くの場合、週7日、24時間稼働しています。これまで使っていたニコン225 kVマイクロCTシステムは2008年に導入しましたが、欧州の産業界では今でも現役で活躍中です」

Fernandez博士は、ラック内の10サンプルサポートステーションに収納可能な直径5cmほどの小さな検査対象物についても、無人検査の際にNHMの自動装置が広く使われていると話しています。

CT装置はスキャンに時間をかけるほど、良好な結果が得られます。サンプルオートローダーが優れているのはまさにこの点です。オートローダーを利用することで、夜間や週末に最大で2時間、標本の無人スキャンが可能になり、最高の解像度を実現しながら、処理量も最大限まで向上できます。速度やスループットとの兼ね合い、あるいは産業用途での一般的な要件などの理由から最高解像度が必要でない場合、「XT H 225 ST」では3Dスキャンと画像再構成を2分以内に行うことも可能です。

「XT H 225 ST」のは42.75×42.75 cmですが、オフセットCTを利用することで85.5×85.5 cmまで拡張でき、高さに関しては最大70 cmまでの標本に対応が可能です。比較的大きな標本は、手作業で直接ターンテーブルに載せます。高さのある標本については、複数のスキャン画像を組み合わせるか、X.Tendヘリカルスキャンソフトウェアを使用してデジタル化することで、垂直のコーンビームアーチファクトのない、単一の拡大イメージが生成可能です。

スキャニングの生産性は、小型の標本で使用するオートローダーの導入に加えて、ニコンの最新かつ独自の回転ターゲット2.0を使用することでも向上を図っています。固定式のターゲットの場合、X線出力は物質の放熱による制約を受けます。出力が大きすぎるとターゲットが溶けてしまい、焦点が合わなくなるためです。ニコンの回転ターゲットは、水冷したターゲットを6,000 rpmで回転させて熱を周辺軌道に放散することで、X線出力や解像度を高く保ち、この問題を克服しています。回転ターゲットは、スキャン速度を大幅に向上させるとともに、固定式のターゲットと比べて、所定の出力でより小さい焦点サイズを生成する目的にも使用が可能です。

回転ターゲットは450 Wで継続的に使用でき、冷却時間も必要ありません。この高出力を、最新の8メガピクセル、16ビットディテクタと組み合わせることで、フル解像度で15 fps、2×2ピクセルビニングディテクタで30 fpsのデータ取得速度を実現します。

このような理由から、Fernandez博士は、ほとんどの場合で回転ターゲットを使用していますが、ターゲットは容易に交換できます。スポットサイズを小さくする必要がある場合は、3 μmの反射型ターゲットや1 μmの透過型ターゲットに交換することで、解像度の向上が可能です。Fernandez博士は、透過型ターゲットについて「非常に小さな標本の研究には最適なX線源である」と話しています。

標本は装置に統合されたマニピュレータによって、スキャニングポジションに自動でセットされ、別途ロボットを用意する必要もありません。

 

日中の作業時など、スキャンの順序を変更する際には手作業で容易に交換が行えます。

 

「XT H 225 ST」には、ニコン独自のマルチメタルターゲットが付属しています。標準的なタングステンの他、葉やプラスチック部品などのデリケートな標本の研究に最適で2番目によく使われるモリブデン、銀、銅の中から用途に応じて選択可能です。いずれのターゲットも、X線源の真空状態を維持しながら交換できるようになっています。

この装置は使いやすさに加えて、多種多様な物質に対して最適な研究が行えるよう、各種設定の微調整も可能です。標本の自動セットが実現したこともあり、導入以来、1カ月平均で100品目ものスキャンが実施できています

NHMによる動物相と植物相のX線CTスキャン例。遺物、動物、植物、化石、岩石など、莫大なコレクションのデジタルアーカイブ化が進められている。

 

製品の詳細はこちら X線検査装置

 

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