中国唯一の女帝・武則天の像の調査に貢献

最先端XCT技術が1,300年前の貴重な歴史的遺産を解明
中国唯一の女帝・武則天(624705年)をモデルとした金メッキ像。高さ25 cmの像の真贋は長年の謎でした。貴重な歴史的遺物を傷つけることなく、その真贋を見極めるため、研究チームはニコンの最先端非破壊検査技術に着目しました。その結果、複数の科学的手法により、この像が本物の歴史的遺物であることが証明されました。

3つの科学的証拠が本物であることを証明

  1. 均一な材料密度による真贋判定
    3D CTスキャンから得られたデジタル画像は、重要な情報を明らかにしました。CTスライスは均一なグレースケールとなっており、この像のモノリシック構造は均一な材料密度で1種類の金属材料から作られていることが裏付けられました。つまり、外殻が複数の異なる材料や現代の材料を組み合わせて作られたものではないということが証明されたのです。陝西師範大学王教授は、この発見の重要性について次のように述べています。
    「金属材料が単一であることを特定することは、古美術品の真贋を科学的に判定する際に基礎となるものです。これによって鑑定手法が主観的な様式的評価から客観的な材料分析へと変わります。CTスキャンによって、グレースケール分布が均一であることを特定し、像の密度と化学組成の一貫性が高いことを裏付けました。この発見は、レプリカと本物を見分ける重要なデータになりました。レプリカの材質は、本物の歴史的遺物に見られる均一性を再現することができないからです」
  1. 古代溶接技術の痕跡
    内部を観察したところ、装飾部品がろう付けやはんだ付けされた箇所の融剤に気泡が確認されました。このような気泡は、中世に行われていたはんだ付けの特徴です。王教授によると「この像に用いられた溶接技術では残留気泡が形成されています。これらの気泡は、ホウ砂などの融剤の分解、あるいは古代の温度管理の限界によって生じたものであり、唐代の職人技により自然に生まれる特徴と考えられています」
    気泡は年代を示す有力な指標となります。本物の歴史的遺物であれば気泡の形状が不規則で内壁は粗くなりますが、気泡がまったく存在しない場合や形状が整いすぎている場合は、現代に制作されたレプリカであることが疑われます。高解像度CTデータによってこのような内部の気泡と構造をマッピングすることで、研究者は像の真贋を効果的に検証し、古代の製造工程を解明することができます。
  1. 冶金学的分析による年代の確定
    オックスフォード大学材料工学の元研究フェローであるピーター・ノースオーバー博士は、電子プローブマイクロ分析によって像の台座から採取した銀合金の微量サンプルを分析しました。合金の密度、および赤銅(4.21%)、亜鉛(0.05%)、鉛(0.11%)の比率、そして微量に存在する他元素は、唐代の既知の銀工芸品の成分と一致しており、像が本物であること、およびその年代に制作されたことを補強する科学的証拠となりました。
    さらに、金属組織解析を実施したところ、表面が薄く腐食して発生した緑青は、新しい品を古く見せるための現代的化学処理によるものではなく、何世紀にもわたる自然な経年変化によるものであることが判明しました。
像の3D CTスキャン

高精度XCT技術による3段階のスキャン検査
イギリスのニコントリング工場でXCT検査スペシャリスト、アンドリュー・ラムゼイ氏が、2台のマイクロフォーカスCT装置を使用して3回スキャンを実施しました。

最初の2回は、ニコンXT H 450システムを使用しました。初回スキャンは、解像度140 µmの円形コーンビームスキャンを約36分で実施しました。2回目スキャンは特に注目を集めている頭部を解像度65 umに高め実施しました。

 最後の3回目スキャンはより低電圧な線源と高効率な検出器を備えるXT H320を使用し、ヘリカルスキャンを実施しました。解像度はさらに高い36 µmでした。

密度の高い銀合金製像の内部を精密に撮影するため、線源の前にフィルターを設置し、低エネルギーX線を除去してビームの透過率を高め、画像の鮮明度を向上させました。通常、線源の電圧を上げると高エネルギーX線と同時に低エネルギーX線も増加するため、平均エネルギーはほとんど変わりません。しかしこのフィルターを設置することで、低エネルギーX線が優先的に除去され、アーティファクトを減らします。

スキャンの様子:https://youtu.be/RHMfTIBTdvY

像の2Dデジタルスキャン

歴史学的検証も同時に実施
王教授とカナダのオンタリオ州にあるヒューロン大学の方教授は、この像の目視検査を行いました。竜のような目、広い顔、四角い額、そして鳳凰のような首といった特徴が、古文書に記された武則天の歴史的記述と一致することを確認しました。同様に、衣装と頭部の装飾品も当時の儀礼用の衣装と類似していると指摘しています。

中国唯一の女帝・武則天
冶金学的発見に加え、目視検査とニコンが実施したXCTスキャンにより、この像は本物の歴史的遺物であることが証明されました。今回の分析は、この像が武則天の姿を象った、希少かつ真正な中世初期の作品であるという説を裏付けるものとなりました。

武則天は、男性優位の皇帝統治が長く続いた中国の歴史の中で、自らの権力で統治を行うという偉業を成し遂げた女帝です。武則天は中国史上、正式に皇帝に即位した唯一の女性でした。

デジタルツインが文化遺産の永久保存を実現
この像をXCTスキャンすることによって内部がデジタル化されました。これを高精度の外部スキャンと組み合わせることで、歴史的遺物のデジタルツインを非破壊でアーカイブできました。

外部スキャンで装飾や摩耗といった表面の詳細を捉える一方、内部CTデータは密度や溶接時の気泡だけでなく、材料の有孔性、含有物、亀裂の形状といった隠れた構造を明らかにします。デジタルツインは、当時の製造工程を技術的観点から研究するために重要なツールです。また、異なる時代や地域独自の職人技の痕跡を比較することで、年代や分類が正確になり、データベースの構築が可能になります。

さらにXCT技術は、人類文明のバックアップとして活用できます。たとえ物理的なオブジェクトが失われたとしても、デジタルツインに科学情報が保持されるので、その後もグローバルな研究が可能になります。

像を光に当てる王教授

研究成果の発表と所有者のコメント
ニコンの高解像度スキャンとオックスフォード大学が実施した冶金学的試験の成果、および詳細な歴史研究の結果から、202512月、王教授と方教授による学術論文が、中国学の代表的な国際誌である『Monumenta Serica』に掲載されました。https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02549948.2025.2572200

この像の所有者は、スキャンに至った経緯を次のように語ります。
「ニコンに興味を持ったきっかけは、アンティキティラの機械をスキャンした様子を紹介するイギリスのテレビ番組でした」

「アンドリュー・ラムゼイ氏がCTスキャンプロジェクトの担当者であったため、私は彼に連絡を取ることに決めました。この像が作られた年代と真贋を確定し、これが確かに武則天を象ったものであり、中国にとって非常に重要な文化遺産であるという説を裏付けるために調査を依頼することにしたのです」

「ニコンとオックスフォード大学の協力により、王教授と方教授は、私の所持する像が本物であることを疑いの余地なく証明することに成功しました。同時に、中国唯一の女帝の実際の顔立ちに関する数世紀にわたる謎を解明しました。ご支援くださったすべての関係者に心より感謝いたします」

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